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登校中にて

ねぇねぇ、お母さん。

「ほら、危ないでしょ。お母さん今料理してるから」

母親の忠告を無視して近づく。

ねぇ、お母さん。

「なぁに?」

これ、見て! 凄いでしょ。

今思えば、ただ母親の気を引きたかっただけかもしれない。

上手く描けた絵を、頑張ってできるようになった逆上がりを見せるのと同じような感覚で……

この異常だという能力さえ使わなければ、両親も離婚することも無かっただろう。

「ひっ、こ、来ないで」

顔は青ざめ、後退りする母親。

私はそれに気付かずに更に近づく。

「来ないで! この○○○」

………………

…………

……

目覚まし時計に救われた。

どうせなら、もっと早く悪夢から救ってほしかった。

ボクシングなら、とっくにセコンドがタオルを投げ入れているだろう。

そのイライラを目覚ましにぶつけたせいか、無残な姿になってしまった。

額を腕で拭うと、寝汗でびっしょりだ。

「最悪だ」

一日の最初から、このテンションの落ちよう。

気分を切り替えるためと寝汗を洗い流すため、シャワーを浴びることにした。

熱いシャワーで眠気は飛び、意識ははっきりする。

シャワーから出て、制服に着替える。鏡を見て、自分の灰色の髪の毛にため息が漏れる。

小学生のときは苦労したものだ。

この髪のことで散々な目にあってきた。

上着のパーカーを着て、その髪を隠すようにフードを被る。

鞄を手に取り、ドアを開ける。

ドアを開けると蒸し暑い風が吹き、思わず出るのを躊躇った。

このまま、部屋に引き返して、エアコンのきいた部屋に戻って二度寝ができたらどれほど幸せだろうか。

しかし、それをさせないように友人の大月 結那が待ち伏せていた。

「緋色~おはよう~♪」

私はがっくりと肩を落とし、諦めて外へ出る。

「暑い……」

「あのさー、迎えに来た友人に対しての第一声がそれ?」

「ん、おはよう」

私はフードを深く被り、日差しを遮る。

「はい、おはよう緋色♪」

結那は嬉しそうに笑みを浮かべて私の頭を撫でてくる。その手が心地よくて、私は抵抗しない。

大月結那、私の友人だ。

学校では二人組といういじめがある。

自分で言うのもなんだが、私は変わり者だ。

クラスで二人組やグループを組めと言われれば、無論余る。

参加しなくていいのであれば、それでいいのだが、そうはいかない。

結那は私と積極的に組んでくれた。

「ん、なぁに、私の顔見てぼぉーとしちゃって」

「いつまで、撫でてるつもりなのかなって」

「緋色こそ、ずっと撫でられたいの?」

私は、結那の手を振り払う。

「あっ、ひどい、反抗期なの!?」

「意味がわからん……」

もう、無視して先に行く。

このまま付き合っていたら遅刻しかねない。

「あぁん、待ってよ緋色~」

………………

…………

……

「おはよう」

教室に入ると同時に、小さな声でみんなに挨拶をした。

「みんなおはようー」

続けて結那が元気よく挨拶をする。

結那にはクラスのみんなが挨拶を返す。

一応、教室に入るときに挨拶はするようにはしている。

それをしないと結那が怒るからだ。

面倒だがこれで説教を防げるなら容易い。

「ふぅ……」

先につき大きな溜め息をついた。

この季節になると短時間外にいただけで汗がでる。

菓子パンの袋をあけ、それにかぶりつく。

朝ご飯はいつもこれだ。

ギリギリまで寝ていたいから、朝ご飯は学校で食べる。

「まーた、メロンパン?」

「んー、安い美味い」

理由を簡潔に述べ、またメロンパンを頬張る。

「お弁当作ってきてあげようか?」

「……お金ないよ」

「信用ないのね、お金なんていいのに」

「あ、ありがとう」

どうもこういうのは慣れない。

結那はクラスでも人気者だ。

私は地味で根暗だ。

こう大声で、お弁当だの話題があがると自然とクラスの視線が集まってくる。

「結那はもっと自分の立場を自覚した方がいい」

「それ、緋色が言うかねぇ」

結那の手がメロンパンに伸び、ちぎる。

「あっ、わたしのっ」

「えへへ、緋色のメロンパン美味しい~」

今日一番の私の大声に動じず、メロンパンを結那は笑顔で頬張る。

「ほーら、食べカスついてるよ」

「えっ、うそっ」

私は慌てて口元を拭う。

「あはは、嘘だけどね」

こうなるともうダメだ。

何を言っても結那のペースになってしまう。

「にゃははー、ではまた後で~」

結那は笑いながら去っていく。

朝から無駄に疲れた。

そのせいか自然と目蓋は重くなっていく。

外の日差しや蝉の声など関係ない、エアコンが完備された教室。

寝るなという方が酷だ。

「おやすみ」

誰に言うでもなく、一人で呟いて机に突っ伏した。

………………

…………

……