「お……て……」
やめてくれ、今日は目覚めが悪かったんだ。
もう少し寝かせて欲しい。
「起きてよ、緋色」
あーもうだめだ。
こうなると結那は引かない。
「ん……」
ゆっくり身体を起こし、眠い目を擦る。
「随分ぐっすりだったね、体調でも悪いの?」
結那の手が、私の額に伸びてくるがそれを静止する。
「いや、大丈夫」
「そっか、放課後まで寝てるからさ」
「あっ、えっ……」
「うん、放課後」
ゆっくりと辺りを見回す。
もう周りにクラスメイトはいない。
外からは部活動を行なっていると思われる声が聞こえる。
「ん、帰ろうか」
未だに思考は働かないが、カバンを手に取る。
「ちょっと買い物付き合ってよ」
「いいよ」
私は一人暮らしで晩御飯を買わないといけないから、どの道買い物して帰るつもりだった。
「あら、珍しい」
「なにが?」
「いや、普段なら一言二言文句が出るのに」
「そうした方が良かった?」
「緋色って素直じゃないよね」
よくわからないが、素直じゃないらしい。
普段と違うというのであれば……
「いや、寝ぼけてるのかもしれない」
「あはは、そうかもね」
結那は私の頭をポンポンと軽く叩く。
「で、今日は何買いに行くの?」
「んー色々♪」
結那は嬉しそうに笑い、帰り支度を済ませる。
「緋色っ、行こう」
………………
…………
……
あぁ、どうしてこんなことに……
「ほら。これ可愛いよ」
「うん、そうだね……」
服が見たいといった結那に、着いて行った私が馬鹿だった。
てっきり自分の服を見るのだろうと思っていたら……
「それじゃ、次これ着てみて」
「……」
この通り、試着室から一歩も出れない状況になってしまった。
「どうして、こんなことに」
「ん、もう終わった?」
「ば、ばかっ、まだ着替えてる途中!」
「あはは、ごめんごめん♪」
悪気のない笑い声に、私は溜め息をつく。
一応私のことを考えてか、パーカーを選んでくれている。
「しかし、これ……うさぎ?」
フードの部分には耳がついていて、ボタンの目と鼻がついている。
かわいいが、私には合わないだろう。
「着たよ」
「うわーかわいいっ、緋色っ♪」
「わっ、ばかっ」
抱きついてくる結那。
集まる視線。
なんで試着室前でこんなことになっているんだ。
「結那っ、周り見て周り」
「んーいいじゃん、見せつけておけば」
「こらっ、調子に乗るな」
強引に結那を引き剥がし、試着室のカーテンを閉める。
「まったく、結那のやつ」
胸がドキドキしてる。
周りに見られているのもそうだけど、結那が今日はアグレッシブのような気がする。
「ほら」
脱いだパーカーを渡すと、結那は買い物カゴにいれる。
「い、いや、そうじゃなくて」
「いいじゃん、お金出すの私だし」
「へっ?」
「買ってあげる」
「うっ、ありがと」
パーカーを買い満足そうな笑みを浮かべる結那。
「はい、プレゼント」
「ありがとう」
うさぎパーカーが入った紙袋を受け取り、複雑な気分になる。
「次はゲーセンでもいこうか」
「……」
結那の様子が普段と違うのは明らかだった。
「何かあった?」
「それより、ハンバーガーでも食べる?」
「おい……」
声のトーンをわざと落とす。
笑っていた結那の顔が一瞬で真顔になる。
「ごめん、今日誕生日なの」
「へっ?」
自分でも驚くほど間抜けな声が出た。
「毎年パパとママと食事に行くんだけど、今日はなんか仕事でダメみたいでさ」
結那は俯きながら、淡々と話していく。
「馬鹿だよねー、仕事じゃ無理なのわかってて、我儘言って困らせてさ」
俯いた顔を上げて、苦笑を浮かべながら、頭を掻く。
「……おめでとう」
こういう空気は苦手だ。
どうしていいのかわからない。
「わかった、今日はとことん付き合うよ」
「えへへ、ありがとう」
………………
…………
……
ゲーセンに寄った後、ハンバーガー屋さんへと入った。
せっかくだから、レストランとかにするか聞いたが、結那がここを選んだ。
「誕生日なのにいいの?」
「食べるものが重要じゃなくて、緋色と一緒にいるのが重要なの」
「そう」
よくわからないが、結那が言うなら付きあおうと思う。
「えへへ、ポテトいただきっ」
「あのさ、自分のから食べなよ」
「いいじゃん♪」
結那が嬉しそうなら、今日は我慢しよう。
「ちょっと待ってて」
「どしたの?」
「ちょっと」
「ふーん、トイレ?」
「ち、違う、いいから待ってて」
結那の誕生日プレゼントを買うために、どうにか理由をつけて一人になる必要があった。
「いいから、ここで待ってて」
私は席を後にし、誕生日プレゼントをどうしようか考える。
………………
…………
……