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特訓

真夏の夜の公園。

周りに人などいない。

遊具は塗装が剥がれ、ベンチも汚い。

外灯は点滅を繰り返している。

何が言いたいかというと人気のない公園だ。

私が子供だったら、こんな公園近づきすらしなかったと思う。

「さて……」

ポケットからライターを取り出して、火をつける。

その火を指先で優しく触れる。
熱さは感じない。

私は能力者だ。
炎を操ることができる。

ライターの火を指先で掬い上げる。

「……」

指先で火を練り上げ、落ちている空き缶に向かって飛ばす。

空き缶に当たり、空き缶は宙を舞う。

もう日課としてずっと繰り返してきたことだ。

命中の制度は最初に比べればだいぶ上がった。

もう一度炎を飛ばして、宙の空き缶を吹き飛ばす。

そのまま、空き缶はクズカゴの中に入る。

「ふぅ、帰るか……」

人目につかない時に能力の練習をしなくてはならない。
その上、あまり長時間練習していると気づかれる可能性がある。

だから、少しずつしか練習できない。

あの時、もっとこの能力をうまく使えていたら結那を救うことができた。

でも、後悔で練習しているわけではない。
結那を救うために練習をしているのだ……

………………

…………

……

練習を終え、マンションの入口まできた。

「うぅ……開けてよ……」

隣の部屋の子だろうか、うずくまって泣いている少女がいた。

「……」

関わらないのが吉だろう。

ましてや、他人の家庭の事情に口を突っ込むようなことはしたくない。

鍵をかけて玄関へ足を踏み込もうとした。
だが、足は動かなかった。

「あの、足」

足にしがみついた少女に短く言い放つ。

「ご、ごめんなさい」

少女は立ち上がり、頭を下げる。

目は泣いていたせいか腫れ上がっていた。

「うち、あがる?」

自分でも言葉を疑った。
何を言ってるんだ私は……

「へっ? いいんですか?」

「あぁ、マンションの共有部分で泣かれてたら迷惑だし」

いや、違う。
少女を見て同情してしまったんだと思う。

「ありがとうございます」

私はパーカーを脱ぎ捨てて、冷蔵庫からペットボトルの水を二本取り出す。

「ほら」

「ありがとうございます」

私は少女にペットボトルを渡す。

「八重樫葵です」

「えっ?」

「やえがしあおいって言います」

「あぁ、草薙緋色」

受け答えをしながら、服を脱ぐ。

ランニングや能力の練習で汗だくな私はシャワーを浴びたかった。

「わっ!」

「ん、どうした?」

「い、いえ、別に」

葵は部屋をキョロキョロ見渡す。

「シャワー浴びてくる」

「あっ、へっ? は、はいっ」

………………

…………

……