熱いシャワーで汗を洗い流す。
「家に入れてもらえない……か……」
自分にもあったことだ。
母親が家に入れてくれなかった。
外でただひたすら父の帰りを待った。
「自分に重ねて見てるのか」
他人との関わりを避けていた私が、人を家にあげるなんて。
「こりゃ、明日は雨かな」
まぁ、葵の親が心配してないといいんだが……
余計なお節介かもしれないが、親が子を本気で嫌っているなんて稀だ。
「まぁ、隣だし、後で会いに行けばいいか」
熱いシャワーを止めて、頭を左右にふる。
ぼぉーとしていた頭が一気に切り替わる。
シャワーカーテンをあけ、タオルに手をかけようとした。
「あっ、あっ……」
トイレに座っている葵の姿が目に入る。
膝ぐらいまで淡い青色の下着を下ろし、こちらを涙目で見つめてくる。
「ご、ごめん」
タオルを取り、背を向ける。
「あっ、わっ」
葵は驚いたような声をあげる。
「うっ、悪い……そっちも裸を見たんだから、忘れてくれ」
咄嗟に切り返し、何事もないように振る舞う。
「緋色さん、背中の傷」
「っ……」
シャワーカーテンを力いっぱい閉める。
「ひゃっ」
「すまない」
母につけられた刃物傷……
消えることのない傷痕、母が私を愛していない証。
「ひ、緋色さん?」
「これ、母につけられてな」
シャワーカーテンを少しだけあけて、傷痕を見せる。
「そ、そうなんですか」
「お前の家族もうまくいってないんだろう」
「はい……」
「別に無理に家族と仲良くする必要はない」
自分でも何を言っているのかわからなかった。
でも、母に愛されたかった。
必死に歩むよったが避けられた。
「えっ?」
「これが、無理に仲良くなろうとした結果だ」
身体を拭き終えて、着替えを手探りで探す。
「こ、これです」
「ありがとう」
葵が手を誘導してくれて、着替えをとる。
着替えを終えて、シャワー室から出る。
「お前もそのままシャワーを浴びろ」
「えっ、あっ、はい……」
………………
…………
……
うー、てっきり怒られるかと思った。
それはそうだ。
シャワーを浴びているのをわかっていたのに、トイレを借りて、ばったり裸姿と遭遇してしまった。
「綺麗だったなー」
水滴がついた白髪は、明かりに照らされて銀色のような輝き。
白い肌は鍛えあげられているのか、うっすら筋肉がついていて、水滴を弾いていた。
「うー、私ってヘンタイなのかなぁ……」
興奮なのか、胸のドキドキが収まることはなかった。
私は妄想癖が激しい……
シャワーに入れって言われて……
このあと、緋色さんがベッドで待ってて……
”こっちに来なよ”
なんて言われたら……
”タダで泊めると思ったのかい?”
とかとか……
「あぅ……」
のぼせたのか、エッチな妄想のせいか鼻血が垂れた。
「私ってばかだなぁ」
血が排水口に吸い込まれるのをぼんやり眺める。
不幸なのは私だけではない。
緋色さんだって家族と不仲で、背中に傷を負っていた。
「家族と仲良くする必要ないか」
緋色の言葉を思い出す。
私は嫌われたくなくて、機嫌を取ろうとして、失敗して、嫌われて……
「そんなこと言ってくれる人なんていなかった」
なんか、人生の転機のような気がしてきた。
シャワーで鼻血を洗い流して、私はお風呂を後にした。
………………
…………
……