ライン

バナー

ライン

金魚すくい

お祭りは最終日ってこともあってそれなりに賑わっていた。

私はリンゴ飴を葵のために買ったのだが、はぐれてしまった。

「ここで待ってるように言ったのに」

一瞬結那のことを思い出す。

連れ去られた?
嫌な汗がじわっと出る。

それにこの人混みだ。
はぐれたら会えないかもしれない。

「や、やめてください」

葵の声がした。
人混みを掻き分けて、声のする方向に向かう。

「いいじゃん、どうせ一人なんだろ」

葵は見知らぬ男に手を引っ張られ、人気の無さそうなところへ連れて行かれそうになっていた。

「やめろ」

男の顔にリンゴ飴をぶつける。

「っ、てめぇ、なにすん」

「お前こそ何してんだ」

男の腕を払い、葵を引き寄せる。

「くっ、なんだよ、ちっ」

男は顔を腕で拭いながら去っていった。

「ひ、緋色さん」

涙目になりながら、腕に抱きついてくる。
怖かったのか、少し震えている。

私は自己嫌悪になっていた。
失いたくないのに、また失いかけた。

「葵、ごめんな」

私はリンゴ飴を差し出す。
2つ買ったのだが、1つは男にぶつけてしまった。

「えへへ、ありがとうございます」

葵は涙目のまま、無理やり笑顔を作っている。

「もう、大丈夫だから」

葵の頭を優しく頭を撫でる。

もう片方の手は爪が食い込むぐらいに拳を強く握り締める。

自分の無能さに、苛立っていた。

「行こうか、お祭り楽しもうか」

葵を引き連れて、屋台が賑わう方へ移動した。

………………

…………

……

お祭りって何を楽しめばいいのかわからない。

「えへへ」

葵の好き放題にやらせていたら、いつの間にかさっきの事件を忘れたよな笑顔になっていた。

「緋色さん金魚すくいやりません?」

「別にいいけど」

二人分のお金を渡すとおじさんはポイを2つ渡してくれた。

赤い綺麗な金魚が気持ち良さそうに泳いでいる。

「葵は得意なの?」

「んー、やったことないです」

慎重にポイを水につけ、赤い金魚を救いあげ、お椀に移す。

「おー、凄いです」

強引に救い上げたせいで、ちょっとポイが破れかかっているのがわかる。

「うー」

葵は集中してるようだ。

ポイを水につけるが、そこから迷っているようだ。

右の金魚を追いかけては逃げられて、左の金魚にターゲットを切り替えるが逃げられてしまう。

「よっと……」

葵が追い掛け回してくれているおかげで、こっちに逃げてきた金魚がよってくる。

それをおこぼれと言わんばかりに、ポイで拾う。

「ちょっと落ち着いて」

思わず注意したが、既に遅かった。

葵は破れたポイを握りしめ、睨み続けていた。

「ほら、教えてあげるから」

ポイを葵に渡す。

破れかかっているが、まだ遊べる。

「いいんですか?」

「あぁ」

私は後ろに周り、葵の手首を捕まえる。

「ふぇっ」

「動くな!」

手首を掴んだ時に、葵がビクッと驚くが、ポイは破れないように強く握り締める。

「落ち着いて、ゆっくりでいいから」

掴んでいる手首をゆっくりと動かす。
波を立てないように、水圧を紙で受けないように寝かせた状態にする。

「そう、ゆっくりでいいよ」

耳元で囁く。
葵の髪から、ほのかに良い香りがする。

「右の奴、いくぞ」

葵は黙ったまま頷く。

「おわんをもう少し傾けて下げろ」

ポイを上手く金魚の真下までたどり着いたと同時に、おわんを傾けさせる。

破れかかったポイでは真上まであげることはできない。

「今だ!」

もう掴んでいる手首には力を入れていない。
後は葵でもできると思ったからだ。

「やぁっ」

葵のポイが水しぶきをあげる。

ポイの中央には赤く輝く金魚の姿がいた。

葵の手首を動かし、お椀を素早く動かす。

「やっ、やった!」

ポイは役目を終えたかのように破けていた。

おじさんにお椀を渡すと、金魚を持ち帰り用にビニールに入れてくれた。

………………

…………

……