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偽りの幸せ

葵の能力は治癒能力だった。

でも、古傷などは治せないらしい。

私の背中の傷跡も治ることなく残っている。

「緋色さんは、ねこさんとうさぎさんどっちがいいですか?」

「うさぎで……」

目の前にはオムライスが置いてある。

葵はケチャップを握りしめ、器用にうさぎの絵を描き始める。

「へぇ、上手いもんだな」

「えへへ、動物さんだったら任せて下さい」

「任せる機会があったな」

いつの間にか、私の部屋にも葵の私物が増えた。
と言っても調理器具だったり、寝具だったりと必要最低限のものばかりだ。

家事全般は任せっきりになっていた。

ウサギの耳の部分を救い上げ、口に運ぶ。
卵は半熟でほんのり甘く、ケチャップとの酸味の相性が食欲を唆る。

「あの、緋色さん」

「ん?」

「ご飯粒ついてますよ」

「へっ」

慌てて唇部分を手の甲で拭う。

「あー違いますよ、動かないでくださいね」

葵の唇が私の頬に触れた。

「はっ、あっ」

「えへへ」

葵はイタズラに舌を出すと、確かにご飯粒がついていた。

私は気が付かなかった……

この二人の時間の時に、結那から着信があったということを……

………………

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